一人も置き去りにしない教育について

杉並区議会 平成30年度 第2回定例会 一般質問/井原太一  (平成30年5月30日)

 

杉並区議会自由民主党の井原太一です。

会派の一員として、通告に従って、一般質問をいたします。

 

質問項目は、

「一人も置き去りにしない教育について」

であります。

 

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私たちの社会は今、人口減少そして急速な少子化と高齢化に向かっています。

杉並区の人口は、確かに一時的には増加傾向にあり、子供の数も増えてはいますが、日本国全体の人口が減少している以上、いずれ減少局面に入るであろうことは容易に理解できます。

そのように考えるにつけ、これからの私たちの社会を支える、私たちの故郷の将来を託す若者たち、子供たちの役割が、いかに大切かと考えてしまいます。

もちろん、だから子供が大切だ、という訳ではありません。

その前に、ひとりの人格と可能性を秘めた人間として、一人一人の子供たちが大切であるかということ、私たちはこの子供たちの幸福を願い、この子供たちを守り、育てて行かなければならないことは、言うまでもないことです。

 

「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」これは、言うまでもなく、日本国憲法の第26条です。そして、その第2項は、このように続いています。「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。」

国民たるすべての子供は「教育を受ける権利」を有するとともに、国民である保護者そしてそれを支える行政も、その保護する子供たちにきちんと「教育を受けさせる義務」を負っています。

 

ですから、教育委員会は、これも言うまでもなく、将来を担う子供たちに教育を受けさせる機会をつくり、それを保障する役割を果たさなければなりません。義務教育において、子供に9年の普通教育を受けさせ、学力を確実に身に付けさせることは、公教育の使命です。

これまで、国民とともに、公教育を担う学校、教育委員会、行政は、そのことに懸命に取り組んで来た結果、万民が享受できる今日の教育水準を築いて来たことには、ひろく国民・区民も感謝していることと思います。

 

ところで、ひと口に「教育」と言っても、その幅の広さや、内容の深さは千差万別です。

そこで、義務教育では、学習指導要領に基づき、全国どこであっても同じような学習内容が受けられるようにしてある訳ですが、いくら教える側に準備があったとしても、なかには授業について来られない子がいるのも事実です。

 

出来る子もいれば、出来ない子もいる。

と考えると、義務教育では、児童・生徒に対して、最低限どこまでの学力はつけさせたい、と考えているのか、その目安をどのように規定しているのか、気になるところです。

この質問のタイトルにもあるように、一人も置き去りにしないために、杉並区ではどのような基準を設けているのでしょうか。

 

これまでに他の議員からも個々に質問が出ましたが、教育の場において一人も置き去りにしないために、杉並区ではどのような取り組み、仕組みづくりが行われているのか、改めてここでまとめてみたいと思います。

 

そこでまず伺います。

Q1  児童・生徒に学力を確実に身に付けさせ、つまずきや学び残しをさせないために、学校や教育委員会はどのような取組を行っているのか、伺います。

 

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さて、授業について行けない理由を考えて見ると、本人の意思による場合、つまり勉強がきらいだ、勉強より他のことが大切だ、などという場合もあります。

一方で、必ずしも本人の意思によらない場合、例えば発達上の課題がある、家庭環境が整っていない、家庭教育が行われて来なかった、などという場合もあります。

 

そこで、ここでは、本人の意思によらない場合のうち、発達上の課題がある、特別に支援を要する児童・生徒に対してはどのように取り組んでいるか、を伺って行きたいと思います。

 

特別支援教室は、区立小学校にあっては校内にあり、課題解決のため、あるいは課題を補うための指導が行われています。ものごとの手順を覚えたり、コミュニケーション力を高めたりと、これらは社会生活を行うために必要なスキルを身に付けているとも言えます。

 

一方で、それぞれが持つ課題のために、学習面での遅れや、つまずきを生じさせてしまっている場合がありますが、児童・生徒が特別な課題を抱えているが故に、そのことを加味した指導が必要になります。

 

そこで、

Q2  通常学級に在籍しながら、発達障害等、特別な支援を必要とする児童・生徒に対しては、どのような取組、配慮を行っているのか伺います。

 

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本人の意思によらない場合というのは、ほかにもいくつかあります。

例えば、家庭環境によるものがあります。

家庭の事情により、家庭での学習習慣が身に付いていない、と言う場合。時に、貧困問題も絡んで来ますが、家庭の中に勉強が出来る場所がない。

また、親の育児放棄・ネグレクトなどで、学習習慣ばかりか社会習慣も身に付いていない。成長の遅れがある場合もあります。

虐待を受けている子供は、時として自尊感情が育たず、学習意欲ばかりか物事に対する意欲すら持てなくなってしまったりする。

現代社会にあっては、家庭環境のなかで、あるいは社会環境のなかで、自分を発揮できないでいる、その意欲さえ持てなくなってしまった子供たちもいますが、このような児童・生徒も、大切な一人です。置き去りにすることはできません。

 

そこで、

Q3  家庭環境に起因する発達や学習面での遅れを持つ児童・生徒に対しては、どのような取組、配慮を行っているのか、伺います。

 

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ここまでは、学校の中でのことについて質問して来ました。

が、なかには学校に来ない、来られない子供たちも増えて来ています。

学校での対応のほか、区内には適応指導教室(さざんかステップアップ教室)、無料学習塾、民間でもフリースクール、ボランティアによる学習室、子供食堂に併設された学習支援の場、など様々な活動が起こって来ています。

学校に来ない、来られない子供たちは、出て来ないのだからほっといていい、と言えるのか。

それが本人の意思によるものであるならいざ知らず、本人を取り巻く環境、家庭であったり、学校であったり、社会であったり、がそのようにさせてしまったのであるならば、このような児童・生徒を置き去りにしてしまっていいのか。

すべて国民は、行政も私たちも含めて、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負っています。民間に頼るばかりではなく、公的な包括的施策が必要であると考えます。

 

そこで、

Q4  学校に来ない児童・生徒に対してはどう取り組んでいるのか、伺います。

 

先月、視察で東大阪市を訪ねた時、ここでは不登校対策のひとつとして、ICT、タブレットを利用した家庭学習、授業を動画配信した通信教育ですが、この方法で実績を上げているという話を聞きました。

事例のひとつとして、杉並区でも活用できるのかどうか、調査・研究をしていただきたいと思います。

 

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昨晩、数名の先輩議員とともに、ウェルファーム杉並にある生活保護世帯や生活困窮世帯の児童・生徒を対象にした無料学習塾「中3勉強会&アドバンス」事業を視察して来ました。

これは、これまで「あんさんぶる荻窪」内で実施されていたものですが、施設の移転に伴い、この4月からウェルファーム杉並内に開設されたものです。

週に1回、毎週火曜日の夕方から夜にかけて行われるこの事業は、廊下をはさんで2つの会場・教室に分かれ、片方には無料学習塾を開設し、もう片方は子供の居場所となっていて、相互が連動しています。

この「居場所」では、ゲームをしたり、スタッフやボランティアの大学生たちと遊んだり、またここには調理施設もあるので、一緒に夕食を作って食べるたりもしています。

これまで「あんさんぶる荻窪」では施設の狭さ・制約から実現できなかった活動が、ここでは出来るようになっていました。

ここには精神福祉士も配置されて、学習ばかりでなく心のケアにも対応できていました。

子供たちがリラックスしてその場に溶けこみ、その顔立ちに光がさして来ているように思えたのは、私だけかもしれません。

 

まだ4月から始まったばかりで、無料学習塾に常時通って来ている子は数名、居場所でも20名足らずという状況でしたが、杉並区の人口規模から逆算すると、ここに通って来る子はもっといるはずです。

 

そこで、

Q5  区は、生活保護世帯や生活困窮世帯の児童・生徒を対象に、無料学習塾「中3勉強会&アドバンス」事業を実施していますが、その実施状況および募集の方法について伺います。

 

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次にアウトリーチについて、

先月東大阪市を視察したと述べましたが、ここでは学習支援教室がどのように進められているのかを調べて来ました。

対象はやはり、生活保護世帯や生活困窮世帯の児童・生徒でしたが、ここでは子供がいる生活保護世帯に対して、職員や民生委員などが教室のことを紹介したり繋いだりしている、つまり窓口で待っているのではなくアウトリーチ、すなわちこちらから積極的に出向いて行って、必要としている子を探しに行っているとのことでした。その結果、教室は毎回ほぼいっぱいで、次年度から収容枠を増やしたいと言っていました。

 

どのようにいい仕組みを作っても、本人たちに情報が行き渡らなければ、その存在すらわからない、来ることができません。

また保護者の意識がなければ、目に入ってもその必要性がわからない。

 

ですから、ただ待っているだけではなく、相手先へ出向いて誘うことも必要なのではないか、そのように考えるのです。

 

そこで、

Q6  区の無料学習塾では、児童・生徒の募集について、学校との連携やアウトリーチによる勧誘などを行っているのか、伺います。

 

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次に各担当者・部署間の連携について、

今月私は、佐賀県にある「子ども・若者総合相談センター」を視察して来ました。

ここでは、NPO団体が県や市からの委託を受けて、不登校対策や自立支援などの相談から解決までの支援を行っています。

ここの特長は、ワンストップ窓口で相談ができ、教育、福祉の各制度へつなげられることです。

ここの事業に係わる施策・事業は14あるそうですが、NPOの代表者は、自分たちはその14の施策を結ぶ中継・ハブ機能を果たしている、と話していました。

もちろん、とは言うべきではないかもしれませんが、ここまで来るには、解決しなければならない行政上の課題も多くあったそうです。部署間の壁です。個人情報の取り扱いなどはそのよい例ですが、それをひとつひとつクリアして、お互いの垣根を超える仕組み、部署間を結び合わせる仕組みをつくり、今日に至っているとのことでした。

ここのもうひとつの特長は、やはりアウトリーチです。相談者のところへ出かけて行き、信頼関係を築き、一緒に解決の道を模索するアウトリーチを積極的に行っています。

連携とそこにアウトリーチを加えることにより、引きこもりや不登校については、通常の窓口対応であれば推定潜在数の5%程度しかカバーできないところ、ここでは15%程度の実数をはじき出していました。さらに、そのうち問題解決への道筋が受けられたのは90%を超えるとのことでした。

全国にこのようなNPO団体がどこにでもあるという訳ではありませんが、参考になることは多々あります。

 

そこで、無料学習塾の話に戻りますが、

Q7  支援の対象となる児童・生徒を無料学習塾等につなぐには、福祉事務所や学校だけでなく、区の関連部署との連携が必要だと思いますが、連携の状況について伺います。

 

 

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関連部署との連携が大切だ、ということは、杉並区の担当者と話をしているときにもよく出てきます。これが円滑に進んでいる、部署間の壁を越えて、これが円滑に進んでいることが大切です。

杉並区では、これらの部署間の調整役として、SSW(スクール・ソーシャル・ワーカー)その調整窓口となり、教育、福祉、児相、等々を結んでいると聞いています。

杉並区のSSWは10人となり、他の自治体と比べて配置人数が多いことは評価できるところですし、区内のSSWの潜在需要はもっと多いでしょうから、更なる増員を望むところではあります。

一方で、調整の良し悪しは、SSWの力量によるところも大きいのではないか、言い換えればSSW1人に対する責任と負担が大きい過ぎることはないか、そのあたりは気がかりです。

責任を分担しあい、複数でそれを応援できる組織、仕組み、人員配置、さらには制度や条例などが必要なのではないか。

 

関連部署の垣根を越えた連携を強化すること、これも大切な行政課題だと考えます。

助けを必要とする児童・生徒にしてみれば「自分」は一人であり、扱う部署が複数あるからといって、一人の人を分解する訳にはいきません。

その一人としっかりと向き合うこと、それが大切であり、それが人育てであり、人づくりでもある。

 

もし、各部署間の連携を取るに際して、縦割りの壁があり、お互いが言い出しにくいのであれば、その壁を越えた連携を促すのは、区民の代表である議員、政治の役割であるのではないか。

制度を調査し、このように質問をし、行政を後押しし、時には議員提案で条例をつくってでも行う。

それをできるのは、政治の役割であると考えます。

 

もちろん「教育」を政争の道具に使うのであれば、それは邪道であり、教育に対する、子供たちに対する冒とくとなります。

もし政治を数取りや権力闘争と捉え、その弊害を危惧するあまり、教育に対して見て見ぬふりをするのであれば、それも正しい政治の在り方だとは思えません。

政治は、数取りや権力闘争ではなく、私たち区民の将来を作って行く仕事であるべきだからです。

 

議員、理事者、区の職員、その思いの濃淡はあっても 子供たちの幸福を願わない人はひとりもいないと信じています。

 

そこで、

Q8  教育を受けることについて、児童・生徒を一人も置き去りにしない、させないために、各部署間が垣根を超えて連携して取り組む、その仕組みをつくることへの、区の意気ごみを伺って、質問を終わります。

 

ありがとうございました。